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2022年12月14日

高校の教育現場におけるE2030のヴィジョン-実現を可能とするカリキュラム開発の課題と欲しい尺度・指標-

2022年11月2日、第10回研究者コンソーシアムが開催されました。今回お話頂いたのは、福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校で数学と総合的な探究の時間を担当されている鈴木貴人先生です。主に、探究学習の変遷と課題、現場として欲しい尺度はどのようなものか、についてお話頂きました。


【総合的な探究の時間の変遷と課題】

 「高校における探究学習についての先行研究(藤井・木村・三河内・秋田,2020)では、生徒たちの学びと育ちへの責任を共有するため、学校におけるカリキュラムの関係性と重層性を明確にすることが求められていること、教師間でオーラルなやりとりによる共有、対話が必須であると言われています。一方、私が県内の5つの高校を研究した結果では、ある学校では、探究学習の指導校務が主担当以外の先生に委任出来なかったり、伴走する先生とビジョンを共有することが難しかったりしたため、当事者意識に差が生じてしまったことが課題として見出されました。教師間で協力して行うよりも、「単独で展開した方が良い」「なるべく会議も打ち合わせもやらない」といった回答をされた先生もおられます。また、多忙化の影響により、教師間で必要な打ち合わせ時間が減ってきていることも対話不足を生んでいる原因ともなっています。」

 「学校内の探究の組織は下図のようなイメージであり、真ん中の主担当の教師がカリキュラムデザインを行い、それを学年担当、ゼミ単位の担当、管理職・外部の協同が支援しています。生徒の探究の方向性や能力の測定のため、この円の層の間の当事者意識の差を埋めるのが大事です。インフォーマルな共有のみではなく、共有システムの意図的な構築が必要なのです。」




【欲しい尺度・指標】

 「教師は、これまで学校で評価しようとすると、新しく評価対象が増える度にどう入れるか協同して考え、また評価項目が増える度に減らすことを検討し、取捨選択をやってきました。評価の方向を探るのに、この5年間くらいは組織的に困難な時期でした。探究の成果を測るルーブリック評価を開始し、年に2回、「社会的課題に関する知識・理解」や「他者との協働力」「マネージメント力」等10項目を評価し始めましたが、何か新しい尺度を入れる時の合意形成は未だに難しいところがあります。また、項目は作っても、学校で分析するのはリソースが不足しており難しい現状があるので、分析は民間企業に外注しています。県内の高校でも、やはり定量的な評価は行えていないのが実態であり、分析し、授業改善に活用するのはなおハードルが高くなります。」


 「したがって、高校教師としては、各学校で期待される非認知スキルを評価する尺度・指標が必要です。また、生徒のみではなく、教師の同僚性・協働性を測るものがあれば、教師の当事者意識を高めるきっかけになるのではと思っています。さらに、データを取るための質問票だけでなく、データ入手後の分析・解釈の仕方についても知見を頂くことが出来れば大変ありがたいのです。」


 このように、鈴木先生より、総合的な探究の時間をめぐる教師間の協働について、そして学校教師が求める尺度についてご意見頂いた後、コンソーシアムのメンバーからは様々な感想・質問が出されました。質疑応答や感想例は以下の通りです。


Q:評価を活用しているのはF校だけ、という話だったが、どう活用しているのか。→A:ルーブリック評価に限っては、生徒の学習アセスメント、先生方の次の年の教材や今年の教材を振り返る材料にもしている。探究学習で製作したポートフォリオも3年生の受験のために活かせている。

Q:他の学校はルーブリックをとったけど使えていないのか?→A:作ったが、現場では落とし込めてない、使えていないのが実情。

Q:ルーブリックに新たなものが加えられたこともあると聞いたが、どのようなタイミングで変えられるのか?→A:教師が必要と思ったときに職員会議で検討し、採用される。

Q:教師の意識変容を期待しているとのことだったが、どのような意識のことを指しているのか?→A:自分の中でも葛藤しているが、より多くの教師に総合的な探求をやりたいと思ってくれるように変わってもらえると良いな、と思う。→確かに総合的な探究の経験で身につけた技が教科の授業に影響を及ぼすことはよく聞く。成長マインドやオープンマインドに関わっているようだ。授業研究などで教師が共に学ぶ時間を意図的に作ると意識が変わっていくかもしれない。

Q:生徒たちのフィードバックで先生がやり方を変えたという事例があれば教えて欲しい。→A:私も生徒の成長した姿に注目すれば指導のガソリンになり得るのかなと思った。小さな学校は教師がそれを共有出来るのだが、規模の大きい学校では生徒がやっていることが多種多様なので、1人の教師が全員の生徒を把握できない。我が校では伴走の先生方に発表してもらい指導に活かしてもらっていた時期もあった。

感想:ルーブリックを協働で見直ししたら、先生方とのマインドセットを合わせていくのに有用なのではないか。また、取ったデータから子どもの実態をともに分析していく研修会があるといいのかもしれない。

感想:企業では、座席をフリーアドレスにして固定的な人間関係を脱し、風通しをよくしているところがある。

感想:教育委員会にデータ分析が可能な教育の専門家を配置出来ればアンケートの取りっぱなしにはならないかもしれない。

感想:先生方は、自分の学校の生徒は自校の教師が教えなければいけないと思っているかもしれないが、co-agencyのある教師が何校かの生徒を見ることも考えられるのではないか。今後はそのような議論も進むと良いと思う。


探究の取り組みに関する課題や悩みをご共有頂き、研究者コンソーシアムに多くの学びを与えて下さった鈴木先生に心より感謝申し上げます。今後もコンソーシアムでは、多様な視点から日本の生徒・学生のエージェンシーや非認知コンピテンシーの測り方を検討して参りたいと思っています。


参考URL:三河内 彰子, 藤井 佑介, 木村 優, 秋田 喜代美(2020)「探究型カリキュラム開発における学校のオーラルヒストリーの分析」東京大学大学院教育学研究科紀要第59巻,pp.467-484. https://core.ac.uk/download/pdf/326703976.pdf



研究者コンソーシアム

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